福山・府中地域保健対策協議会


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禁煙支援研修会を開催しました

 

平成22年度 禁煙支援研修会を開催しました。

当委員会では、「たばこの害から子ども・妊産婦を守る」ために、妊産婦や子育て中の両親の喫煙率減少に向けて取り組んでいます。この取り組みの一環として、禁煙支援についての講演とパネルディスカッションを開催しました。

開催日時   平成22年12月8日(水)19:00〜20:30
開催場所 福山市医師会館 4階 演習室
主  催 福山・府中地域保健対策協議会
テーマ 「妊娠は家族ぐるみで禁煙のチャンス」
参加者数 75人
講師 滝川雅之先生

●プログラム
19:00 開会
あいさつ 妊婦等の喫煙対策委員会委員長 川本定紀(かわもとクリニック)
19:05 講演
演題「産婦人科併設歯科医院における禁煙支援の取り組み」
講師 ハロー歯科院長 滝川雅之先生(〒701-0204 岡山市南区大福369−8) 
20:00 パネルディスカッション 
テーマ「妊娠は家族ぐるみで禁煙のチャンス」 
コーディネーター:妊婦等の喫煙対策委員会委員長 川本定紀(かわもとクリニック)
パネラー
 小児科医の立場:
   木村眞人先生(木村小児科)
 産科医の立場:
   安藤尚子先生(白河産婦人科)
 禁煙外来医療機関の立場:
   徳毛健治先生(とくも胃腸科皮ふ科)
20:30 閉会 
あいさつ 妊婦等の喫煙対策委員会委員長 川本定紀(かわもとクリニック)
木村先生 安藤先生 徳毛先生


【講演内容】 (講師スライド資料(PDF)こちら

「産婦人科併設歯科医院における禁煙支援の取り組み」
  講師 ハロー歯科院長 滝川雅之先生

 ハロー歯科は、年間出生数が約1,000人の産婦人科医院(三宅医院、岡山市)に併設された歯科医院である。「母子歯科保健システム」として、妊娠中から出産後の定期健診において母子の歯科疾患予防に取り組んでいる。

1) 妊産婦とタバコの害について
 近年、男性の喫煙率が激減している一方で、女性の喫煙率は11〜15%と横ばい状態である。ただし、若い女性の喫煙者が増えているのが目立つ(20代15.9%、30代16.8%)。妊婦の喫煙率は10年前では6%であったが、10年間で約2倍(10%)に増加していた(平成12年の全国調査より)。24歳以下の若い妊婦の喫煙率が高く、特に10代の妊婦は3人に1人(34.2%)が喫煙しているという状況であった。
 親が喫煙していると子どもが将来喫煙する傾向が高くなる。とりわけ母親の喫煙は子どもとの接触時間が長くなるため、受動喫煙(副流煙)による悪影響を及ぼしやすい。また、自分自身もせっかくの美貌がタバコ1本で25mgのビタミンCが消費され、コラーゲン代謝も悪くなることで肌は老化し、シミやしわも増えて“喫煙者顔貌”となってしまう(有名な双子の写真)。
 妊娠中の喫煙は子どもの身体にも知能にも悪影響を及ぼす。妊娠初期の喫煙は影響が大きく、ニコチンは胎児の脳を傷つける。知能低下や多動、発達障害、問題行動などのある「育てにくい子ども」となるリスクが高まり、虐待につながりやすくなる。喫煙者と非喫煙者の妊婦から産まれた子どもが成長した11歳のときに身体能力や学習能力、読解力を調べてみると、どれも喫煙者の子どものほうが劣っているというデータもある。
 妊娠すると約7割の妊婦が禁煙するということは評価できる。しかし、出産した後で安心して再喫煙してしまうことも多く、このことを防止するための継続的な禁煙支援が必要である。

2) 間接喫煙の害と子どもへの影響
副流煙と主流煙の害の強さについてマウスの実験のビデオ映像が流れる。副流煙を吸わされたマウスは主流煙を吸わされたマウスよりも早く6分前後で痙攣をおこし、副流煙のほうが明らかに毒性が高いことが示された。
 間接喫煙については、妊婦の周囲の人(特に夫)に禁煙を勧めることが必要である。妻の妊娠で夫は換気扇の下でタバコを吸ったり、ベランダで吸う“ホタル族”となることが多いが、実はあまり効果は期待できない。衣服についた煙や喫煙者の呼気からの有害物質が影響するからである。非喫煙家庭の子どものニコチン蓄積量と比較した報告からは、親が同じ室内で吸った場合15倍で、換気扇の下は3倍、ドアを開けて戸外で吸った場合2.3倍、ドアを閉めて戸外で吸った場合でも1.9倍の蓄積量が認められた。
 子どもへの間接喫煙の影響として、歯科関連では歯肉にメラニンが沈着し、虫歯が増えるなどの影響がみられる。実際の歯科での臨床経験からも、母親がタバコを吸っていると、子どもに虫歯が多いと感じることがある。間接喫煙により唾液の緩衝作用や自浄作用が低下して虫歯ができやすくなることや、母親の健康意識や家庭環境も影響するからではないかと考えられる。
 最近の調査では、小中学生の喫煙率は減ったが、「初めての喫煙年令」が低年齢化していることが報告されている。両親が喫煙者の場合、小学生の間に喫煙を始める子どもが多く、子どもは大人より短期間でもニコチン中毒となりやすいので、低年齢化していることは大問題である。

3) ニコチン依存のメカニズムと禁煙補助薬
 喫煙によってニコチンを身体に入れた場合、脳内ではニコチンがアセチルコリンレセプターと結合してドーパミンが出て、「幸せ」だとか「リラックスできる」と感じてしまう。しかし、ニコチンは刺激が強いのでレセプターが【α2β2ニコチンレセプター】に変化してしまう。変化したレセプターにはアセチルコリンが結合できずドーパミンが出にくい状態となり、幸せな気分を感じにくくなってしまう。ドーパミンが出ないと不安で落ち着かない気分になって、ニコチン不足がイライラを引き起こすようになる。ニコチン依存の状態になると、ニコチンを身体に入れドーパミンを出して幸せな気分を味わいたいと思うようになる。このような渇望感はタバコを吸った時のみ解消され、また吸ってしまうという悪循環に陥ってしまうのである。実は、タバコによって解消されるのはニコチン不足のストレスだけで、全てのストレスから開放されるわけではない。そして、タバコを吸ってもニコチンの血中濃度が下がってくると、30分くらいでまた吸いたい気分になってしまう悪いサイクルが繰り返される。喫煙はまさに病気=中毒症なのである。
 「ニコチンパッチ」は常に貼っておくことで持続的に低濃度のニコチンを供給してくれるので、タバコを吸わなくてもいい状態になり、パッチの濃度を徐々に減少させながら禁煙が達成できる。また、「チャンピックス」は【α2β2ニコチンレセプター】に結合して、ニコチンがレセプターに結合することを邪魔する。さらに「チャンピックス」によっても少量のドーパミンが放出されるので、幸せな気分も満足させてくれるのである。禁煙外来ではこのような禁煙補助薬をうまく使用して5割以上の人が禁煙に成功しているそうである。

4) タバコの口腔内への影響
 喫煙者は、口腔がん、歯周病、虫歯などにかかりやすく、喫煙者独特の口臭や舌苔、歯肉のメラニン沈着などが認められる。ニコチンによる末梢血管の収縮作用が、歯周組織の血流量減少を引き起こし、組織代謝や免疫機能が低下して歯周病が進行しやすくなる。喫煙は歯周病の第一のリスクファクターである。重度の歯周病で、仮に28本の歯全てに5〜6ミリの歯周ポケットがあれば、その総面積は大人の手のひらサイズぐらいにもなる。歯周病は単に口腔内だけの問題ではなく、糖尿病、心臓病、誤嚥性肺炎などの全身疾患にも関連し、妊婦では早産・低体重児出産となる危険性が高まることが報告されている。
 妊娠期は女性のライフステージの中で、虫歯や歯周病が発症・進行するリスクが非常に高まる時期であるといえる。つわりによって歯磨きが不十分になりやすいことに加え、亢進した女性ホルモンが影響して歯肉が赤く腫れ、出血しやすくなる(妊娠性歯周炎)。
 歯周病細菌であるインターメディア菌は、亢進した女性ホルモンを栄養源として増殖する。歯周病局所由来の細菌毒素やプロスタグランジンなどの炎症性物質が血行性に進入し、子宮平滑筋の収縮や子宮頚部を拡張させることによって、早産や低体重児出産を引き起こすのではないかと考えられている。この状態にさらに喫煙が加わると、ニコチン、一酸化炭素などの影響によって胎盤が機能低下や低酸素状態となり、流早産や胎盤早期剥離など、母子の生死にも関わる重大な異常が引き起される危険性が高まる。したがって、産婦人科併設歯科である当院では、特に妊婦の歯周病治療と禁煙支援に力をいれて取り組んでいるのである。

5) ハロー歯科での取り組み実践編
 「精神的に不安定となりやすい妊産婦にショッキングでネガティブな内容が多い喫煙の害について伝えることが良いのか?」、「禁煙補助薬は妊婦や授乳中は使用禁忌であり、薬を使わずに禁煙支援がスムーズにできるのだろうか?」、「歯科では限界があるのでは?」などと、妊婦の禁煙支援を始めるに際しては多くの不安があった。しかし、7割以上の妊婦は胎児のことを思い、自らの意志で禁煙している。また、つわりによってタバコを受け付けなくなり、自然に禁煙できる妊娠も多い。妊娠期は皆が良い親になろうと努力し、赤ちゃんのことを考えた生活をするようになる。健康に対するモチベーションが非常に高まる時期でもあり、妊娠・出産は禁煙のビッグチャンスといえる。
 歯科の診療システムにおいては、診療や定期健診時に個別で継続支援ができるメリットがあるので、特に「妊娠を機に禁煙した人が喫煙を再開しないこと」を目標に禁煙支援をスタートさせた。これまでに、妊産婦に対するアンケート調査、禁煙支援用の問診票の作成、スタッフの勉強会、啓発用ポスター作成などに取り組んできた。

 アンケート結果では、妊娠前にすでにタバコをやめていた人は63%で、妊娠がわかってからやめていた人は37%だった。出産後に禁煙が続くかどうか聞いたところ、「たぶん吸わない」78%、「もしかしたら吸ってしまうかもしれない」が22%との回答だった。この「もしかしたら吸ってしまうかもしれない」人をカウンセリングしてみると、タバコの害についてよく理解していない方が多いことがわかった。禁煙に成功した妊婦が出産後に喫煙を再開しないようにするためには、タバコの害について正しい情報を伝えることと、継続的に支援できる環境をつくることが重要であると考え、歯科の定期健診を利用して継続的にサポートしている。 
 産婦人科で開催される出産準備クラスや育児支援クラスなどで、歯科講演を通じて情報提供もしているが、タバコのネガティブな面ばかりを強調するのではなく、「禁煙することでこんなにいいことがある」というポジティブな面も伝えることを心がけている。禁煙に成功した人の感想も具体的で説得力があり、待合などに掲示するのも有効である。
 無関心期の人は難しく、信頼関係が確立しないままでいくら禁煙を勧めても行動変容には繋がりにくい。まずは歯科診療や定期健診において何でも話ができるような信頼関係を築くことが大切であり、関心を引き出すまでは禁煙外来のことなどをサラリと紹介するぐらいとしている。
 これからの活動としては、@喫煙妊産婦に加え、非喫煙者の妊婦で家族に喫煙者がいるで場合は、家族も対象として禁煙支援や健康教育をおこなう。A禁煙支援、健康教育、育児支援の場として、歯科定期健診の継続とさらなる充実を図る。B小児歯科の子どもと保護者を対象に、タバコの害について子ども向けのポスターで啓発する。C禁煙希望者への確実な禁煙支援システム作り(併設する内科クリニックで禁煙外来がスタートした)などを行い、禁煙支援の輪を広げていきたいと思う。




【シンポジウム内容】
  (木村先生資料(PDF):こどもとたばこ・たばこでこどもを苦しめないでください!

小児科医の立場:木村眞人先生(木村小児科)

 中学校でのタバコについてのアンケート結果で、中学校1年生で150人中20人がタバコを吸ったことがあると答えている、タバコの入手経路は「友人にすすめられて」が多い。
 「タバコの影響について」聞いたところ、タバコは全身病を引き起こすという認識がなく、肺の病気になると答えた子どもが多い。タバコ=肺がんだという認識は大人も同じ。「タバコをすすめられたら断ることができますか」という問いに「確実にできると思う」が87人で約半数だった。
 講演後のアンケートでは、「タバコの影響について」全身病という認識がかなりでてきた。しかし、本当であれば、全員が全身に影響があるとわかって欲しい。「断ることができますか」という問いに「確実にできると思う」との回答がほぼ倍増する結果がでる。
 このことからも、学校保健の中で子どもたちに正しい知識を与えていくことは大切だし、学校保健の中で話をすると、確実に認識率は上がる。教育に動画や写真とか実際の目で見てわかるような媒体を使うことが必要だと、講師の滝川先生がマウスの実験映像をつかわれたが、同じようにウサギの耳の血管がニコチンによって収縮する動画や、カイワレ大根を成長させる時にきれいな水とニコチン入りの水を使った実験を写真で撮ったものを見せると一目瞭然で、ニコチンはいけないとういう認識になる。これが単に肺の問題だけでなく、成長や発達に密接にかかわってくることがわかってもらえやすい。
 禁煙に興味をもつ人にツールを紹介する。グーグルで「妊娠、禁煙」を検索すると、妊娠中の喫煙妊婦の相談がヒットしたり、ヤフーでは「妊娠中の禁煙」知恵袋で妊娠中の禁煙のことを相談していたりして、見た人からいろいろアドバイスが書き込まれたりする。禁煙支援している人も、その人にあったツールを探すことができると思う。生命保険(民間医療保険)で健康体割引やノンスモーカー割引などがあり、保険料が10%割引があることを情報提供している。
 医院では初診でこられた方全員と、喫煙されている方にリーフレット(木村先生資料:こどもとたばこ・たばこでこどもを苦しめないでください!)を渡している。


産科医の立場:安藤尚子先生(白河産婦人科)

 喫煙については、アンケートに正直に書かない妊婦が多いので、「タバコをやめたい」と思っている人を対象に支援していくことが大切です。
胎児の心音が母親の喫煙によって変化する状態を、実際の心音で紹介する。喫煙による心音の変化がよくわかる音が流される。
 正常な胎児の心音は120〜160回の心拍数だが、妊婦さんがタバコを吸うことで胎児心音が下がって、分娩監視装置のアラームが鳴った。妊婦さんが吸っているときに血管が収縮するため、心拍が落ちておなかの赤ちゃんは虐待と同じように首を絞められて「くるしい、くるしい」といっている状態になる、タバコを吸わなくなったら通常の心拍数に戻り、この音を聞いたことがきっかけで妊婦さんは禁煙できました。


禁煙外来医療機関の立場:徳毛健治先生(とくも胃腸科皮ふ科)

 妊婦特有の喫煙の問題点をまとめた(知らなかったでは済まされない妊産婦喫煙の問題点)

@ 妊娠前の喫煙問題:卵巣に卵母細胞が800万あるが、毎月左右交互に卵子が出される。その様な時にタバコを吸うと卵子にダメージがある。子孫を残す上からからも、若い女性の喫煙は妊娠前から問題がある。(女性ホルモン、卵子、精子への影響)早期閉経、女性ホルモン低下、骨粗鬆症、高脂血症、動脈硬化、子宮外妊娠、月経困難などの原因。
A 妊娠中の喫煙問題:(胎児への影響)胎児は10ヶ月で3キロ成長する。癌でもそんなには大きくならない。成長過程でニコチンが遺伝子に及ぼす影響は計り知れないことがわかる、当然といえば当然です。早産、流産、低体重児、奇形児、身長、言語能力、数学能力の低下。
B 出産後の喫煙(子どもの受動喫煙、子どもの喫煙願望)子どもの喘息、肺炎、気管支炎、中耳炎、身長、将来の喫煙など。

 禁煙外来で指導するグループで薬も使わずに7割禁煙できるグループはないので、妊娠した人が薬を使わずに7割禁煙するのはすごいことだと思う。それだけ、妊娠は禁煙のモチベーションのあがる時なので、禁煙した後いかに禁煙を持続させるかを考えていくことが大切。
 禁煙に成功したお母さんが、タバコをやめてからは子どもが抱きついてくれるようになって、「お母さんいい匂いがする」といわれて、とてもうれしかったと報告され、禁煙は親子関係も良くすることがわかった。

 

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