病理解剖

ご遺族の承諾のもとに、病死された患者さんのご遺体を解剖させていただくのが「病理解剖」で、剖検(ぼうけん)ともよばれます。生前の診断は正しかったのか、どのくらい病気が進行していたのか、適切な治療がなされていたのか、治療の効果はどれくらいあったのか、死因は何か、といったことを判断します。事故や犯罪がからむ法医解剖や医学生の教育のために献体していただく系統解剖とは異なるものです。病理解剖では、外からわかりにくいように切開し、診断に必要な臓器をとりだして、2時間ほどで終了します。ご遺体は解剖後に清拭(せいしき)されてご遺族のもとに戻されます。病理解剖の肉眼所見は、解剖を行った病理医から主治医へと報告され、ご遺族に説明されます。なお、顕微鏡所見を含めた最終診断には少し時間が必要です。病理解剖の結果が蓄積されることによって、他の方法では得がたい医学の進歩への貢献が期待されます。病理解剖はある意味で個人がなしうる社会への最後の貢献といえます。また、故人の体の中でどのような病気がどれぐらい進行していたのかを病理解剖によって明らかにし、その苦しみがいかばかりであったかを知ることは、ご遺族にとって意味のあることではないでしょうか。

※検体保存の意義とプライバシー保護

医療従事者は、質の高い医療の提供を第一の目的として、努力を重ねています。新しい検査法や治療法を開発するための医学研究・医療技術者を育てるための教育も同時に行われています。病理診断を行ったあとの残った組織や細胞は、病院の規程に従って一定期間保存され、その後、礼をもって荼毘(だび)に付されます。これらの検体が医学研究・教育・診断の精度管理に用いられる場合もあります。この場合、個人の特定ができないよう、プライバシーの保護に細心の注意を払って行いますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

(社)日本病理学会「病理診断ってなあに」より 引用