〜Topics 〜 ワクチンのはなし

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■ ワクチンとは

外部から侵入してくる細菌やウイルスなどの病原体に対して、免疫担当細胞が「自己」と「自己でないもの」を識別し、「自己でないもの」のみを攻撃することでからだを守るしくみを「免疫」といいます。

免疫には自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫は、生まれながらに備わっているもので、病原体が体に侵入してきた際に即時に働きます。一方、獲得免疫は後天的に獲得するもので、免疫記憶とよばれるしくみにより、からだに侵入してきた病原体の特徴を記憶し、再び同じ病原体が侵入してきた際に、最適な武器を用いて対処することができる免疫です。この獲得免疫のしくみを利用した感染予防が「ワクチン」です。

ワクチンはよく治療薬と混同されることがありますが、両者は感染症に対して全く異なるはたらきをします。ワクチンは感染する前に接種するのが原則で、感染の防止や感染したときの重症化を防いだりする効果があります。一方、治療薬は病気にかかったときの症状を改善し、治癒させるためのものです。混同しないようにしましょう。

ワクチンで予防できる病気(感染症)は

ワクチンで予防できる病気をVaccine Preventable Diseases(VPD)といいます。世の中にはたくさんの病気が存在しますが、なかには、HIVやデング熱のようにワクチンがないために有効な予防ができず、毎年多くの命が奪われている感染症もあります。そんな中で、予防のためのワクチンが開発されているのがVPDです。ワクチンは子供から成人まで有効なものがたくさんあります。病気の発症や重症化を防ぐ方法があるのにワクチンを接種しない、こんなもったいないことはありません。

ワクチンと集団免疫

集団免疫とは、特定の集団が感染症にかかるか、あるいはワクチンを接種することで、多くのヒトが免疫を獲得し、免疫を持っていないヒトも感染症から守られるようになる現象のことです。集団の中で免疫を持つヒトが一定の割合に達すると、感染の拡大を抑えることができるようになり、この割合のことを集団免疫率(集団免疫閾値)とよんでいます。この値は感染症ごとに異なり、「感染しているヒトが、まだその感染症に対する免疫を持っていない集団に入ったときに新規に発生する感染者数の平均」を表す基本再生産数を基準に算出されます。また、現在のコロナ禍でみられるように「実際に感染を減らす努力が行われている状況下で、一人の感染者が平均で何人に感染させるか」を表す値を実行再生産数とよんでいます。いずれも値が「1」を上回ると感染が拡大に向かう一方、「1」を下回ると収束に向かうとされています。ワクチンの接種により集団免疫率を上げることができれば、自分を守るだけではなく、他のヒトも守ってくれる効果が期待できるのです。さて、コロナワクチンはどんな力をみせてくれるのでしょうか?

さまざまなワクチンがあります、その違いは

★生ワクチン(弱毒生ワクチン)

生ワクチンは弱毒生ワクチンともよばれています。一般に、生きた細菌やウイルスなどの病原体は、培養細胞や動物で培養を繰り返していくうちに、毒性が低下してヒトの細胞では育ちにくくなる性質をもっています。このように毒性を弱めたうえで接種すると、感染する危険性はありませんが、免疫システムを活性化し、抗体を産生させる能力は維持されます。免疫効果が持続しやすく、なかには生涯に1~2回接種するだけで十分な免疫が期待できるものもあります。麻しんや風しんは、一度免疫ができると効果が半減するまで50年くらい続くとされています。

★不活化ワクチン

特殊な化学薬品で処理し、感染・発症させる能力を失わせるのですが、ワクチン成分としての効果は維持させた状態の細菌やウイルスを接種する方法です。感染性がなくても、ヒトの免疫システムを活性化して抗体などの産生をうながすことができます。生ワクチンに比べ副反応が少ないとされていますが、免疫効果が維持される期間が比較的短く、複数回の接種が必要となる場合があります。インフルエンザや日本脳炎などで実用化されています。

★成分ワクチン(コンポーネントワクチン)

組換えタンパク質ワクチン(タンパク質サブユニットワクチン)
ウイルスを構成する成分のうち、感染にかかわる部分のみを培養細胞などを使って増やしたのち、精製したものを接種する方法です。生ワクチンや不活化ワクチンに比べ、ウイルスそのものを使用しないので、副反応が起こりにくいとされています。一方、精製されたワクチン成分の免疫を起こす力が弱いことが多く、ヒトの免疫システムがうまく働かない、変異したウイルスには効果を示さなくなるなどの問題点もあります。百日咳ワクチンや破傷風トキソイドで実用化されています。

★ウイルスベクターワクチン

感染力を維持した弱毒性のベクターウイルス(運び屋)に、ワクチン成分に対応する特定の遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを接種するものです。ベクターとなるウイルスがヒトの細胞内に侵入し、特定の遺伝子からウイルスのワクチン成分となるタンパク質をつくることで、免疫システムを活性化し、抗体が産生されます。新型コロナウイルスでは、チンパンジー由来のアデノウイルスをベクターとしたワクチンが開発されています。このアデノウイルスはヒトの体内での増殖能力はありませんので、安全性が高いベクターとされています。これまでに、遺伝子を組み込んだベクターは先天性の代謝疾患やガンの治療に応用されており、感染症の領域ではエボラ出血熱ワクチンが海外で実用化されています。

★核酸ワクチン

核酸ワクチンは、ウイルスベクターワクチン同様、ワクチン成分の設計図となる遺伝子を接種し、遺伝子が取り込まれたヒトの免疫担当細胞にワクチンとなる物質を産生させることで免疫システムを活性化させる方法です。細菌やウイルスを直接使用しないので、生ワクチンや不活化ワクチンと比べて安全性が高いとされています。また、核酸ワクチンは、一度つくり方が確立すると、通常のワクチンよりもより迅速につくることができます。ウイルスに変異が生じた場合でも、変異のない領域の遺伝子を利用して簡単にワクチンをつくり変えることができる利点があります。
代表的な核酸ワクチンはRNAおよびDNAワクチンです。

mRNAワクチン
私たちの体内ではさまざまなタンパク質がつくられていますが、その設計図はDNAにあります。ワクチン成分となるタンパク質がつくられる過程で、DNAは設計図をmRNA(メッセンジャーRNA)に転写という形でコピーします。この設計図が記述されたmRNAをワクチンとして接種することで、この設計図をもとにヒトの細胞内でつくられたワクチン成分に対する抗体が免疫システムによって産生されるのです。
一般にmRNAワクチンは非常に不安定な物質とされています。コロナワクチンでは、生体内での分解や「自己でないもの」と認識されることでの攻撃から守るため、脂質を主成分とする粒子に封入した状態で接種されます。また、保管、輸送する場合には超低温を保つ必要があります。mRNAワクチンは、役目を終えると、最終的には体内のRNA分解酵素で処理されることから、安全性の面からも有用とされています。このワクチンがヒトに対して実用化されるのは、今回の新型コロナウイルスワクチンがはじめてとなります。

DNAワクチン
病原体のワクチン成分に対応する設計図をもつDNAを直接接種する方法です。DNAの持つ設計図情報は、ヒトの細胞内でmRNAにコピーされ、mRNAの情報をもとに病原体特有のワクチン成分をつくることで、ヒトの免疫システムを活性化して抗体などの産生をうながします。mRNAワクチンとは異なり、作用工程が2段階になりますが、DNAを人工的に合成することは比較的簡単とされ、速く、安く、大量につくれることがこのワクチンの利点とされています。

ワクチンの副反応(副作用)

ヒトの体内では、ワクチンは「自己でないもの」と認識されますので、免疫システムにより生体は何らかの抵抗を示し、これが副作用となって現れるのです。ワクチンの接種で一定の頻度でみられるアナフィラキシーや発熱などは、ヒトに免疫が付与されたことによる免疫反応が原因であることが多く、一般の治療薬における副作用とは区別して「副反応」とよばれています。どんなワクチンでもまれに副反応がみられますが、実際の感染症に比べると症状も軽く、まわりのヒトに感染させることもありません。ワクチンにゼロリスクは存在しないのです。

■ 新型コロナウイルスワクチンは

全世界で300近い数の会社が開発に参画し、熾烈な競争が進んでいます。現在、わが国で早期使用が予定されているワクチンは、mRNAワクチン2種類とウイルスベクターワクチン1種類です。

有効性,「90%を超える発症予防効果」の意味は
「100人にワクチンを接種したら、90人は感染しない」という意味ではありません。例えば、100人にワクチンを接種(接種群)、別の100人に偽薬(対照群)を接種したと仮定した場合、対照群に対して接種群で発症した割合が90%以上減少したという意味なのです。言いかえれば「ワクチンを打たずに発症したヒトの90%は、ワクチンを接種していたら発症しなかったはず」ということを表していることになります。

現在、公表されている各ワクチンの有効性(発症予防効果)は、mRNAワクチンでそれぞれ95%、ウイルスベクターワクチンで62%と報告されています。

副反応,アナフィラキシーは
現在、わが国で接種が予定されているワクチンについて、CDC(米国疾病管理センター)が明らかにしている副反応のひとつ、アナフィラキシーについての情報を紹介します。

A) ファイザー/ビオンテック社製(mRNA):一般名「トジナメラン」、商品名「コミナティ筋注」
1回目のワクチンを接種したアメリカ国民190万人の成績。アナフィラキシーを発症したのは21名、このうち、7割が15分以内に発症したとし、追跡できた20名はすでに回復しています。また、17名に医薬品や食品になどに対するアレルギーの既往歴が確認できたとしています(CDC,MMWR, Jan, 15, 2021)。

B) モデルナ社製(mRNA)
1回目のワクチンを接種したアメリカ国民400万人の成績。アナフィラキシーを発症したのはわずか10名であったとしています。このうち、6名が入院を要したものの、症状が発現した時間は、9名が接種後15分以内、残りの1名は30分以内であったとし、アナフィラキシーが発現するのは極めてまれであるとしています(CDC,MMWR, Jan, 22, 2021)。

C) アストラゼネカ/オクスフォード社製(ウイルスベクター)
アナフィラキシーについての情報は、現在のところ公表されていません。

※本資料は、2021年1月現在の情報をもとに作成しています。

参考資料

  • COVID-19 ワクチンに関する提言(第一版):一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会,2020年12月
  • 新型コロナ 7つの謎 最新免疫学からわかった病原体の正体,宮坂昌之 著,講談社.
  • 新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実,峰宗太郎 著,日経プレミアシリーズ.