【いきいき健康メール】(2024年8月号)
2024年8月9日発行号
◎意外と知らない食中毒
7月の齋藤洋先生の記事と被ってしまいましたが、食中毒が流行っています。食品衛生法では食中毒患者を診察した医師には24時間以内の保健所への届け出義務があります。原因として細菌、ウイルス、アニサキスが大部分を占め、細菌では加熱不十分な鶏肉で多いカンピロバクターが一番です。梅雨時期~夏季は湿度や気温が高く、細菌性食中毒が増加していますが、多くは不衛生な環境と不適切な温度管理から起こっています。因みに冬はノロウイルス(カキなどの二枚貝の加熱不十分時に多く、感染力も高い)が多く、春や秋には自然毒による食中毒が多く発生しています。
●食中毒の予防
食中毒予防の3大原則は細菌を「付けない」「増やさない」「やっつける」です。「付けない」ためには手洗い、器具の洗浄・消毒が重要です。菌が付着した肉を調理した後の器具を介して生野菜から食中毒が発生した例もあります。「増やさない」ためには温度管理が重要です。多くの細菌は20℃~50℃で増えやすく(37℃が最適)、10℃以下では増殖は抑えられ、65℃以上になると多くの細菌は死滅します。通常は一度に10万個以上の細菌を摂取しないと食中毒にはなりませんが、カンピロバクターでは数100ヶ、O-157では数10ヶでも発症することがあり要注意です。「やっつける」ためには食べる前の加熱が基本で、菌が増殖した場合でも中心温度が75℃、1分間以上の加熱で大半の細菌は死滅します(但し、電子レンジの場合は加熱ムラに注意)。
●加熱してもやばい細菌
先日東京のデパートの鰻弁当で黄色ブドウ球菌による食中毒事件が発生しましたが、弁当、サンドイッチなどの「手づくり食品」では黄色ブドウ球菌に注意が必要です。この菌は健康な人の約30%が保菌していますが、1g当り10万ヶ以上に増殖しないと食べても発症しないと言われています。菌自体は熱に弱いのですが、増殖するときにエンテロトキシンという毒素を作り、これは100℃、20分の加熱でも分解されないので一旦毒素が産生されると食べる前に加熱しても無効です。酸素のない状態でも増殖可能で、多少塩分があっても毒素をつくります。潜伏時間は平均3時間と早いのが特徴で症状は吐き気、嘔吐、腹痛です。何よりも調理時の手洗い、器具の洗浄(付けない)が重要です。
二日目のカレーではウエルシュ菌に要注意です。この菌は土や水の中、人の便中など自然界に広く分布して芽胞を形成して100℃、6時間でも生き延びる事があります。この菌で汚染された肉や魚を使ってカレーなどの煮込み料理を作り、余った分をそのまま室温で長時間放置すると、運悪く菌が生き残っていた場合、カレーが冷める過程で一気に芽胞が発芽して増殖することがあり、翌日食べる時に加熱不十分な場合、食中毒の原因となります。この菌は嫌気性(酸素のない所で増殖する)なので、調理時にはよく加熱し、残った分はよくかき混ぜて空気を入れながら加熱して冷蔵保存しましょう。潜伏期間は約12時間、症状は下痢や腹痛です。
文責:福山市医師会 感染症対策委員 大塚 眞哉