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〜Topics 〜 細菌とウィルスの違いは何?

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感染症の原因となる細菌とウイルス、性質も大きさも構造も治療法もまったく違うのです

世の中には、細菌、ウイルス、酵母、カビ、キノコ、アメーバなどいろいろな微生物が存在しています。わたしたちのからだにも、非常に多くの細菌が住みつき、お互いにバランスを保って共生しています。これらを「常在菌」といいますが、この常在菌のバランスが崩れたり、免疫力が弱くなったりすると、ときとしてわたしたちのからだを攻撃し、感染症を引き起こすことがあります。
大きさも、細菌とウイルスではまったく異なります。細菌はおおよそ1~10μm(マイクロメーター)、一方、ウイルスの直径はおおよそ0.02~0.3μmと微生物ではもっとも小さいとされています。

感染症は、常在菌が悪さをしたり、他の微生物がからだに侵入することでおこる病気ですが、なかでも「細菌」と「ウイルス」は原因となる微生物のなかでも王様的存在なのです。
それでは、細菌とウイルス、どこが違うのでしょうか?

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■どんな構造?

細菌の構造

細菌はグラム染色という方法で、ブドウ球菌などの青く染まるグラム陽性菌と、大腸菌などの赤く染まるグラム陰性菌に染め分けることができます。グラム陽性菌とグラム陰性菌に共通する構造は、ペプチドグリカンとよばれるタンパク質からなる、細胞の形を保つための細胞壁をもっていることです。細胞壁は細菌にのみに存在し、ヒトや動物の細胞にはありません。抗菌薬の多くは細胞壁を攻撃するように作られており、細胞壁をもたないヒトの細胞には影響を与えないので、安全性が高いといえます。また、グラム陰性菌に特徴的な構造は、細胞外膜をもっていることです。この外膜が、抗菌薬の効果を邪魔することがあります。

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ウイルスの構造

例としてA型インフルエンザウイルスの構造について解説します。直径約100nmの大きさのA型インフルエンザウイルスの表面には、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の二種類のスパイクとよばれる糖タンパク質が突き出ています。HAは感染しようとする細胞に吸着、侵入するための役割を担っています。一方、NAは、細胞内で複製、増殖したウイルスを感染した細胞から遊離させる働きをします。遊離したウイルスは、次々と新しい細胞へ感染し、複製、増殖していくのです。A型インフルエンザウイルスのHAは16種類(H1~H16)、NAは9種類(N1~N9)のタンパク質が解明されており、HAとNAの組み合わせにより、実際には144種類の亜型が存在します。HAタンパクはワクチンの主成分としても使用されています。また、ウイルスの殻には、8本のRNA遺伝子が存在し、遺伝情報や複製、増殖の際のタンパク合成にかかわっており、このなかにある核タンパクは、インフルエンザ検査キットの抗体を作成するための抗原タンパクとして使用されています。
また、ウイルスはその構造からエンベロープをもつものともたないものとに分けられます。エンベロープとは、脂質からなる二重膜で、脂質と親和性が高いアルコールがエンベロープを壊すことでウイルスを死滅させることができます。一方、エンベロープをもたないノロウイルスなどは、アルコールが作用する部位がないため効果は望めません。

■どうやって増える?

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細菌の増殖

細菌は、ヒトに感染し、必要に応じて栄養を取り込むことで、そのエネルギーを利用してタンパク質(DNA)を合成し、二分裂で元の細菌と同じものが2倍、4倍と増えていくのです。また、菌によっては、毒素を産生してヒトの細胞を傷つけ、さまざまな症状を誘発することもあります。細菌は糖やタンパク質などの栄養と水があり、適切な環境が整えば、ウイルスのように生きた細胞などにたよらなくても自分で増えていくことができるのです。
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ウイルスの増殖

ウイルスは細胞ではないので細胞分裂はみられません。ウイルスは自分を複製するための設計図(遺伝子)はもっていますが、その設計図をもとに自分を組み立てる設備をもっていないのです。そのため、その設備をもつヒトや動物の細胞に吸着、侵入という形で潜り込み、細胞の中で複製、増殖していくのです。すなわち、生きた細胞に寄生して、本来、細胞が増殖のために利用する遺伝子やタンパク質を使って複製、増殖し細胞の外に出ていき、次から次へと新しい細胞に侵入し、増殖を繰り返すのです。このように、ウイルスは感染したヒトなどの細胞を利用してDNAやRNAを合成するため、後述する変異が起こる可能性が高くなるのです。

■変異と薬剤耐性?

本来、効いていた薬が効かなくなることを薬剤耐性といいます。現在、薬剤耐性は、細菌やウイルスに限らず、あらゆる微生物に拡がり、世界的な社会問題となっています。

細菌の変異と薬剤耐性

細菌にとって抗菌薬は極めて迷惑な物質です。細菌は、抗菌薬の影響から逃れようとさまざまな手を使って戦いを挑んできます。細菌が耐性となる原因には、生まれながらに抗菌薬が効かない場合(自然耐性)と、もともと抗菌薬がよく効いていた細菌の性質が変わって効かなくなった場合(獲得耐性)の2つがありますが、問題となるのは後者です。細菌が耐性を獲得するしくみには、①抗菌薬を分解したり、修飾したりする方法を獲得する、②抗菌薬が作用する部位を変化させて攻撃から逃れる方法を獲得する、③抗菌薬が菌体のなかに流入するのを阻害する方法を獲得する、④細菌の中へ流入した抗菌薬を菌体の外へ汲みだす方法を獲得する、などがあります。細菌のDNAには、増殖に必要な情報を組み込んだ染色体上にあるDNAと、染色体外にあるプラスミドと呼ばれる環状のDNAの2種類があり、これらの耐性機構はこのどちらのDNAにも存在しています。こうして細菌の染色体DNAに組み込まれた薬剤耐性遺伝子は、二分裂で親細胞から娘細胞へと伝播していきます。また、死滅した菌の残骸からDNAを自分に組み込んだり、細菌に感染するウイルス(バクテリオファージ)を介してDNA情報を得るなどの方法で、薬剤耐性を獲得することもあります。
薬剤耐性遺伝子がプラスミド上に存在するとさらに厄介なことになります。プラスミドは菌種間を自由奔放に動きまわり、接合伝達という方法で同じ仲間から耐性遺伝子を受け継いだり、違う仲間に受け渡したりして加速度的に拡散することができます。現在、世界中で大きな問題となっているのがこのタイプの耐性菌です。この耐性菌は、前述①の耐性機構を獲得した耐性菌で、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)とよばれ、治療の切り札的存在のカルバペネムというグループに属する抗菌薬を分解して耐性となります。なかには現存するすべての抗菌薬に耐性の菌も存在するため、「悪夢の耐性菌」とよばれ世界で最も恐れられている耐性菌のひとつです。

感染症の原因となる細菌がこのような耐性を獲得すると、その抗菌薬は効きめが弱いか、まったく効かないことになるのです。このように、細菌は自身のもつ遺伝子を変異させたり、遺伝子を他の細菌から譲り受けたり、他の細菌に受け渡したりすることで、薬剤に対するさまざまな武器を獲得することができるかしこい生物なのです。

ウイルスの変異と薬剤耐性

ウイルスはヒトや動物の細胞内で増えていくうちに、一定の頻度でDNAの塩基配列の読み違い(コピーミス)がおこります。このため、ウイルスを構成するタンパク質のアミノ酸の一部が別のアミノ酸に置き換わることがあり、これを変異とよんでいます。変異がおこると、もとのウイルスとは感染力や病原性が異なるウイルス、すなわち、変異ウイルスが誕生します。インフルエンザウイルスでは、HAやNAのアミノ酸に毎年のように小さな変異がおこっています。抗体が結合する部位のアミノ酸が変異すると、ウイルスは免疫から逃れて優勢となりどんどん増殖して、シーズンを通して流行します。このような理由から、インフルエンザワクチンはその年に流行するウイルスの型を予測してワクチンを作製し、毎年接種する必要があるのです。このため、ワクチン作製に使用したウイルスと流行しているウイルスの違いが大きければ、ワクチンの効果が弱くなることがあります。
タミフル(一般名:オセルタミビル)などが攻撃目標とするNAタンパクのアミノ酸に変異がおこると、薬剤耐性インフルエンザウイルスとなり、薬の影響を受けずに増え続けることができるようになります。薬剤耐性インフルエンザウイルスは、薬に対して抵抗性を示しますが、病原性や感染性に大きな変化は確認されていません。また、薬剤耐性ウイルスに対してワクチンが効きにくくなるということもありません。

■治療は?

細菌とウイルスの感染症では治療法が大きく異なりますが、いずれも中心となるのは、わたしたちの免疫力です。

細菌感染症の治療

一般に、細菌による感染症の治療では、ペニシリンなどの抗菌薬が使用されます。細菌による感染症といってもさまざまな種類があります。からだのどこで感染症がおきているのか、原因になっている細菌はなにかを考えて治療方針がたてられます。抗菌薬は、感染症の原因となっている菌によっても異なり、菌によっては効く薬と効かない薬があります。抗菌薬を飲む量や期間も、感染症がおきている部位と原因菌の組み合わせで変わってきます。また、処方された抗菌薬は、決められた量と回数を決められた日数で飲み切ることが大切です。5日間飲むべき抗菌薬を、よくなったからといって1日でやめてしまった、1日3回飲まなければいけない薬を1回に変えてしまったなど、からだのなかで抗菌薬が中途半端に効いた状態になるとその薬に対する耐性菌が出現します。決められたとおりに飲んでいればやっつけられていたはずの耐性菌が生き残り、薬に弱い菌がいなくなるという現象がおこるのです。将来、不幸にもこの耐性菌による感染症に罹った場合、使用できる抗菌薬が限られてしまい、治療が難しくなるという問題がおこります。抗菌薬は、細菌に確実なダメージを与えることで、死滅させることができるのです。
細菌による感染症の治療では、原因となる病原体を抗菌薬が直接攻撃して殺菌しますので、その効果は比較的速やかに現れるのが特徴とされています。

ウイルス感染症の治療

カゼなどのウイルスによる感染症に対しては、細菌による感染症で処方される抗菌薬は全く効きません。一部、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、エイズウイルスなどに有効な抗ウイルス薬がありますが、ウイルス感染症の多くは対症療法と自身の免疫力を中心とした戦いになります。
たとえば、インフルエンザでしばしば処方されるタミフルは、インフルエンザウイルスがノドなどの細胞内で増え、細胞外に遊離されるのを止めることで症状を抑える薬です。このように、抗ウイルス薬の多くは、ウイルスの増殖を抑えることを目的として作られています。そのため、薬の効果はゆるやかに現れてきます。

■どうやって予防?

感染症を予防するうえで、細菌とウイルスに大きな違いはありません。感染症に対する予防は、清潔を保ち、免疫力を高めることが重要です。日頃からバランスの良い食事、基礎体力の維持、規則正しい生活、ストレスの軽減に努めることが大切です。また、新鮮な材料を選び、すぐに食べるか、保管する場合は冷蔵庫を利用するなど、食中毒に対する注意も重要です。
ヒトの免疫のしくみを利用したワクチンも多くの感染症の予防に貢献しています。私たちの周りには、ワクチンで予防できる感染症がたくさんあります。ワクチンを接種することにより、あらかじめウイルスや病原体に対する免疫を作り、重症化を防いだり、感染症になりにくくしたりすることができるのです。


<参考>

  • 橋本 一 他:抗菌薬を理解するために 改訂第5版,国際医学出版,東京,2013.
  • 抗菌薬適正使用テキスト 第3版,日本化学療法学会編,2013.
  • AMR Reference Center:https://amr.ncgm.go.jp/general/1-2-1.html