Home > 健康支援センター 検査 > 〜Topics 〜 アレルゲンを探る

〜Topics 〜 アレルゲンを探る

ダウンロードはこちらから ⇒ PDF[1,468KB]

アレルゲンを探る


私たちの体に備わる免疫は、感染防御において最も重要な仕組みといえます。しかし、時に、外部からの異物に対し、過剰に反応し、体に不利益な反応を誘発することがあります。これをアレルギーといい、その原因となる物質をアレルゲンといいます。花粉、食物、ハウスダストなど、通常は、本来無害と思われるものに対して起こってしまうアレルギー反応ではIgEが関与していることが多く、アレルギー検査のひとつである特異的IgE検査は、このIgE(抗体)を測定しています。アレルギー検査は、一般の方にも広く認知されるようになり、患者さんの関心度も高い検査となっています。今回は、血液で検査できる特異的IgE検査の今についてお話しします。

アレルギーは2ステップ

アレルギーへの対策は、アレルギーの原因(アレルゲン)となるものを避けることから始まりますが、"本来無害とされているものがアレルゲンになる"ということについて、まず、IgE依存性のアレルギーの発症機序からお話しします。

感作と発症

体内に異物(下図:抗原A)が侵入すると、抗原Aに対するIgE(抗体)が産生されます。
外界に接する皮膚、気道、消化管などの免疫応答の盛んな粘膜組織の血管周囲などに分布している肥満細胞と血中を流れてきた抗原Aに対するIgEは強固に結合します。
この状態を「感作」といい、特異的IgE検査は「陽性」となりますが、アレルギー症状は現れません。

topics_allergen_001.gif

感作が成立した肥満細胞が同じ異物(上図:抗原A)に再び遭遇すると抗原抗体反応がおこり、肥満細胞内からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出され、鼻水やじんましん、アナフィラキシーなどのアレルギーを発症します。

このように、アレルギーは、アレルゲンによる感作からはじまるわけですが、アレルギーのメカニズムが解明されるにつれ、思いもよらぬアレルゲンがアレルギーの発症に関わっていることがわかってきました。

予期せぬアレルゲンによる感作 2)

アレルゲンになり得るものは、その多くはタンパク質です。そのうち、特異的IgEと結合するタンパク質をアレルゲンコンポーネント(以下コンポーネント)といいます。一般に、共通の起源から進化してきたタンパク質は、類似した構造を有しているため交差反応をきたしやすくなります。

例えば、シラカンバ花粉症の患者さんが、りんご、モモなどを食べ、口腔、咽頭、口唇粘膜の刺激感、かゆみなどのアレルギー症状をおこす「花粉・食物アレルギー症候群(Pollen-Food Allergy Syndrome:PFAS)」があります。
植物の種(しゅ)を超えて広く分布し、植物の生体防御に関与しているタンパク質の仲間にPR-10(Pathogenesis-related protein-10)というものがあります。シラカンバ花粉のコンポーネントであるBet v 1、りんごのコンポーネントであるMal d 1、モモのコンポーネントであるPru p1が、PR -10 タンパク質の仲間で、いずれも、その構造が似ているため、交差反応によってアレルギーを発症することがあるわけです。

下表に、感作の原因とアレルギー発症の原因が異なる例を示しましたが、アレルギーの原因を探るには、当該アレルゲンの感作経路の特定のみならず、交差反応からアレルゲンの推定をすることも大切です。

topics_allergen_002.gif

特異的IgE検査も2ステップ

特異的IgE検査は、アレルゲンによる感作が成立しただけで陽性になるため、アレルギー発症の原因となるアレルゲンを決定するものではありませんが、感作されているアレルゲンを把握することで、重篤なアレルギーの予測や対処が可能となるメリットがあります。
ここでは、特異的IgE検査の課題や今後期待される検査についてお話しします。

粗抗原特異的IgE検査と含有コンポーネント 5,6)

通常の特異的IgE検査(以下粗抗原特異的IgE検査)に使用されているアレルゲンは、アレルゲンを含有する原料から抽出(粗抗原エキス)されます。粗抗原エキス中には多くの種類のコンポーネントが存在し、その中には、当該アレルゲンに特異的なもの(下図)、他のアレルゲンと交差反応するもの()、存在が微量ながらアレルギー症状発現に重要なもの()、重篤な誘発症状に関連するもの()、IgE抗体と反応しないもの()などが含まれています。

topics_allergen_003.gif

しかし、粗抗原エキス中の個々のコンポーネントの含有量は異なり、アレルゲン原料の採取条件によってもその存在比は大きく異なります。例えば、大豆のコンポーネントであるGly m 4などは、発芽過程やストレスによって発現されるため、アレルゲン原料が種子の場合は含有量が少なくなります。また、すべてのコンポーネントを同程度に抽出することは難しく、一般には、主要アレルゲンが抽出され易い条件で作製されることが多く、条件によって、抽出されにくいコンポーネントの含有量は十分ではないことがあります。

そこで、粗抗原特異的IgE検査に加え、粗抗原から高純度に精製された単一のコンポーネントを用いたコンポーネント特異的IgE検査(Component-Resolved Diagnostics:CRD)が併用されるようになりました。

コンポートネント特異的IgE検査の活用

アレルギーをコンポーネントに基づいて診断するという概念が提唱されるようになり、コンポーネント特異的IgE検査は、診断効率の改善、重症度の予測、予後判定などに利用されるようなりました。現在、通常診療(保険適応)で使用できるコンポーネント特異的IgE検査は、下表に示すように食物アレルギーを中心とした10項目ですが、その有用性についてご紹介します。

topics_allergen_004.gif

(1) 診断の向上 7)
アレルゲン物質や臨床型において50%以上の患者さんのIgE抗体が反応するアレルゲンを主要アレルゲンと言います。主要アレルゲンに特異的なコンポーネントに陽性であれば、誘発症状の原因がそのアレルゲンである可能性が高くなり、診断効率があがります。
例えば、重篤なアナフィラキシーを起こすピーナッツアレルギーですが、ピーナッツのコンポーネントであるAra h 2は最も臨床症状と相関が強いと言われており、ピーナッツでは粗抗原特異的 IgE が陽性でも、Ara h 2 が陰性である場合、摂取できる可能性がでてきます。その他、重篤なアレルギー症状誘発との関係が明らかなコンポーネントとして、ラテックス(Hev b 6.02)、小麦(ω-5グリアジン)および大豆(Gly m 4)などがあります。
(2) 臨床型の推定 8,9)
同じアレルゲン物質によるアレルギーであっても感作されたコンポーネントによって、起こりうる臨床症状は異なります。
例えば、成人の小麦アレルギーには、ω-5グリアジン感作型小麦アレルギー、加水分解コムギに感作された小麦アレルギー、イネ科花粉症に合併する小麦アレルギーなど様々な病態があります。病態ごとに対処方法や予後が異なるので鑑別が必要になりますが、コムギ粗抗原特異的IgE検査に、グルテン、ω-5グリアジンの検査を併用することで鑑別が可能となります。

アレルゲンコンポーネントは、遺伝子配列またはアミノ酸配列が同定された順に、国際分類で命名され、WHO/IUIS(World Health Organization/ International Union of Immunological Societies)に登録されます。
近年、モモの新規のアレルゲンとしてPru p 7(Gibberellin-Regulated Protein:GRP)が同定されました。このコンポーネントは、カバノキ科花粉感作もなく、モモの粗抗原特異的IgE検査も陰性でありながら、顔面浮腫(特に眼瞼浮腫)を特徴としたアナフィラキシーに至る重症アレルギーの予測アレルゲンコンポーネントとして注目されています。
日本でも、このPru p 7に感作されたモモアレルギーが報告されています 10)
このように、多くのアレルギーコンポーネントが同定され、研究報告も多くされていますので、今後の臨床応用への充実が待たれます。

おわりに

今回、血液のアレルギー検査である特異的IgE検査についてご紹介しました。アレルギーの診断はあくまで臨床症状が優先であり、アレルギー検査の結果の解釈には専門の知識が必要です。アレルギーは医師が症状等に基づき総合的に判断し、診断・治療を行います。


【参考資料】

  • 1)河本宏.『もっとよくわかる!免疫学』.羊土社,2011.
  • 2)近藤康人.食物アレルゲンコンポートネント コンポーネントを知るとアレルギーが面白い.
    アレルギー 2018;67(8):996-1002.
  • 3)Allergens News Network メールニュース No.21 ファディア株式会社
    http://www.recaptulandodigital.com.br/Global/Market%20Companies/Japan/ANN/ANN%20No.21.pdf
  • 4)福冨有馬.『臨床現場で直面する疑問に答える 成人食物アレルギーQ&A』.日本医事新報社, 2019.
  • 5) Allergens News Network メールニュース No.24 ファディア株式会社
    http://www.recaptulandodigital.com.br/Global/Market%20Companies/Japan/ANN/ANN%20No.24.pdf
  • 6) Allergens News Network メールニュース No.29 ファディア株式会社
    http://www.recaptulandodigital.com.br/PageFiles/37050/ANN%20No.29.pdf
  • 7) 猪又直子.進化するアレルギー診断学 Component-resolved diagnostics.日本小児アレルギー 
    2011;25(1):36-49.
  • 8) 森田栄伸.アレルギー疾患~感作と発症のからくり~ 臨床現場からとらえた感作と発症
    食物依存性運動誘発アナフィラキシーの発症と抗原感作.アレルギー・免疫2012;19(1):70-77.
  • 9)C. Constantin, S. Quirce,M. Poorafshar, A. Touraev,B. Niggemann, A. Mari, et al. Micro-arrayed wheat seed and grass pollen allergens for component-resolved diagnosis. Allergy 2009; 64: 1030-1037.
  • 10)Naoko Inomata. Gibberellin-regulated protein allergy: Clinical features and cross-reactivity.
    Allergology International 2020; 69:11-18